相続税法では相続(遺贈を含む。以下同じ。)や贈与によって財産を取得した者の状況によって、課税される財産の範囲を変えています。
課税される財産の範囲を変えるといっても、ポイントは国外財産を課税するか否かです。
国外財産とは、海外にある不動産や、預金等です。
どういった状況において、国外財産を課税対象にするかについて、何回かの税制改正がありました。
そしてその結果、相続人や被相続人(受贈者や贈与者)の状況を分類して、それぞれのケースにおいて、国外財産を課税対象にするか否かを判断します。
昔は単純だった
そもそも、平成12年度の税制改正以前は課税財産の範囲は単純でした。
納税義務者を以下の2つに分けて、課税財産の範囲を定めていました。
*無制限納税義務者
相続や贈与により財産を取得した時に、国内に住所を有している個人
・課税対象は国内財産と国外財産
*制限納税義務者
相続や贈与により財産を取得した時に、国内に住所を有していない個人
・課税対象は国内財産
これは、分かりやすい考え方ですよね。
国内に住んでいる人には、相続や贈与で譲り受けた財産が、国内のものであれ、国外のものであれ課税します。
国外に住んでいる人に対しては、国内の財産だけを課税します。
国外の財産については、現地の税法に従ってください。
ということで、筋が通っています。
ところが、この制度を租税回避に使用する人が増えてきたのです。
子を海外に移住させて、国外財産を贈与することによって、贈与税を回避するのです。
そのようなことが多々行われるようになり、平成12年に税制改正を行い、そのような行為の防止を試みました。
それでもなお、工夫を凝らして、租税回避を行う者もいます。
納税者と国とのイタチごっこです。
平成25年と29年にも、この件に関して、税制改正がありました。
ただし、平成29年の税制改正では、課税範囲を強化するだけでなく、一部緩和もしています。
これは、日本で一時的に働く外国人への配慮のためです。
平成29年の税制改正後の納税義務者と課税財産の範囲
平成29年の税制改正後の相続における納税義務者と課税財産の範囲を紹介します。
ただし、贈与における納税義務者と課税財産の範囲も同様なので、文中の単語を以下のように置き換えることによって、贈与の場合にあてはめることができます。
・相続→贈与
・相続人→受贈者
・被相続人→贈与者
・相続開始時→贈与時
用語の意味
一時的に日本に居住する者について、以下のような場合は税務上の扱いを区別しています。
◇一時居住者
相続開始時において在留資格を有する者で、その相続開始前の15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以内であるもの
◇一時居住被相続人
相続開始時において在留資格を有し、かつ国内に住所を有していた被相続人で、その相続開始前の15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以内であるもの
◇非居住被相続人
相続開始時において国内に住所を有していなかった被相続人のうち次のいずれかに該当する者
①その相続開始前の10年以内に国内に住所を有していたことがある者で、その相続開始前の15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以内であるもの(その期間引き続き日本国籍を有していなかったものに限る)
②その相続開始前の10年以内に国内に住所を有していたことがない者
国内に住所がある相続人の場合
①相続人が一時居住者の場合
被相続人が以下の場合は、国内財産のみに課税、それ以外の場合は国内財産と国外財産に課税
・国内に住所がある一時居住被相続人
・国内に住所がなく、かつ10年以内に国内に住所があった非居住被相続人
・国内に住所がなく、かつ10年以内に国内に住所がない被相続人
②相続人が一時居住者以外の場合
国内財産と国外財産に課税
国内に住所がなく、かつ日本国籍がある相続人の場合
①10年以内に国内に住所がある相続人
国内財産と国外財産に課税
②10年以内に国内に住所がない相続人
被相続人が以下の場合は、国内財産のみに課税、それ以外の場合は国内財産と国外財産に課税
・国内に住所がある一時居住被相続人
・国内に住所がなく、かつ10年以内に国内に住所があった非居住被相続人
・国内に住所がなく、かつ10年以内に国内に住所がない被相続人
国内に住所がなく、かつ日本国籍がない相続人の場合
被相続人が以下の場合は、国内財産のみに課税、それ以外の場合は国内財産と国外財産に課税
・国内に住所がある一時居住被相続人
・国内に住所がなく、かつ10年以内に国内に住所があった非居住被相続人
・国内に住所がなく、かつ10年以内に国内に住所がない被相続人
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